

プロジェクト概要
クライアント: 地域特産品を扱うEC事業者
目的: モバイルユーザー体験の改善とコンバージョン率の向上
課題: 限られた予算内での効果的なECサイト改善と購入プロセスの最適化
解決策: 既存システムを活かしたUX/UI改善とモバイルファーストアプローチの導入
背景と課題
クライアントは地元の食品や工芸品を全国に販売するECサイトを運営しています。過去1年間でモバイルからのアクセスが全体の65%に増加したにも関わらず、サイトはデスクトップ優先の設計のままでした。元々はコンバージョン率向上を目的としてデザインのリニューアルを希望されていましたが、プロジェクト開始時点では以下の課題が明らかになっていました:
- モバイル最適化の遅れ: スマートフォン表示時のタップターゲットが小さく、操作ミスが発生しやすい状態
- 購入プロセスの複雑さ: 5段階に及ぶチェックアウトプロセスでカート放棄が多発
- パフォーマンスの問題: 画像最適化が不十分で、ページ読み込み速度が競合サイトの平均値を下回る
- 情報設計の課題: 「商品が見つけにくい」「必要な情報にたどり着けない」というユーザーの声
特に重要だったのは「モバイルユーザーのコンバージョン率がデスクトップと比較して著しく低い」という事実でした。カート放棄分析では、配送情報や支払い方法の入力ステップで多くのユーザーが離脱していることが判明。この問題を解決するために、既存のECプラットフォームを活かしながらもユーザー体験を根本から見直すアプローチを提案しました。
改善アプローチ
ユーザージャーニーマップの作成と分析
まずは実際の利用者の行動パターンを理解するため、主要ユーザー層の「商品発見→購入完了」までのジャーニーマップを作成しました。これにより以下の点が明らかになりました:
- 商品カテゴリーの階層が深すぎて目的の商品にたどり着くまでの導線が非効率
- 商品詳細ページから購入ボタンまでのスクロール距離が長く、特にモバイルで認知負荷が高い
- 会員登録とゲスト購入の選択肢がわかりにくく、新規顧客獲得のハードルとなっている
これらの発見を基に、ユーザーが特にストレスを感じるポイントや離脱しやすい場面を特定し、優先的に改善すべき箇所を明確化しました。
モバイルファーストデザインへの転換
デザイン改善においては、モバイル画面を最優先に考えるアプローチを採用。限られた画面サイズでも重要な情報やアクションが最適に配置されるよう、以下の点に注力しました:
- 商品カテゴリー構造の簡素化(3階層から2階層へ)
- 重要なCTAボタンのサイズ拡大と色による視認性向上
- タップしやすい余白設計と操作領域の確保(最小44×44ピクセル)
- スワイプやタップなどのモバイルジェスチャーを考慮したインタラクション設計
モバイルで最適な体験を設計した後、その考え方をタブレットやデスクトップにも適用することで、一貫性のあるユーザー体験を実現しました。
ページ読み込み速度の最適化手法
サイトパフォーマンスの向上のため、以下の技術的対応を実施:
- 画像最適化: 全商品画像をWebP形式に変換し、適切なサイズ設定を実施
- 非同期読み込み: ファーストビューに必要な要素を優先的に読み込む実装
- キャッシュ戦略: ブラウザキャッシュを効果的に活用し、再訪問時の読み込み時間を短縮
- 不要なスクリプトの削除: サイト全体で使用されていないjavascriptやCSSを特定し削除
これらの対策により、モバイルでのページ読み込み時間が平均40%短縮され、GoogleのPageSpeed Insightでも90以上の高いスコアを獲得しました。
実装のポイント
購入プロセスの簡素化
ユーザーテストの結果を踏まえ、購入完了までのステップを5段階から3段階に削減。特に以下の点に注力しました:
- ゲスト購入オプションの明確化: 会員登録を強制せず、ゲスト購入の選択肢を同等に表示
- 1画面での商品情報確認: 商品選択から数量、オプション選択までを1画面で完結できるよう再設計
- 進行状況バーの追加: 現在の位置と残りのステップを視覚的に表示し、安心感を提供
- 情報入力の最小化: 必須項目を厳選し、入力フォームのフィールド数を削減
これらの改善により、ユーザーが購入プロセスをより簡単に理解し、ストレスなく完了できるようになりました。
商品情報の視認性向上
商品の魅力を効果的に伝えるため、情報設計を全面的に見直しました:
- 特徴が一目でわかる項目別表示: 商品のセールスポイントを箇条書きで視認性良く表示
- スワイプ操作に最適化した画像ギャラリー: モバイルでも直感的に商品画像を閲覧できる UI
- 重要情報の優先表示: 価格、在庫状況、配送条件などの購入判断に重要な情報を上部に配置
- レビュー情報の活用: 実際の購入者のレビューを効果的に表示し、購入の後押しとなる信頼性を提供
特に商品画像については、拡大表示機能の改善や複数アングルからの画像提供により、実店舗で商品を手に取るような体験の再現を目指しました。
フォーム入力の負担軽減策
ユーザーにとって煩わしいフォーム入力を簡略化するため:
- 入力フィールド数の削減: 必須項目の見直しにより、従来の15項目から9項目に削減
- 住所自動入力機能: 郵便番号からの住所自動入力で、ユーザーの入力負担を軽減
- エラー時のリアルタイムフィードバック: 入力ミスをその場で指摘し、フォーム送信後の手戻りを防止
- フォームの分割表示: フォームを論理的なセクションに分け、心理的負担を軽減
また、バリデーションルールの見直しにより過度に厳格なチェックを緩和し、ユーザーのフラストレーションを減らしました。
導入効果
改善実施後、サイトパフォーマンスは以下のように変化しました:
- ユーザー滞在時間の増加: サイト全体の平均セッション時間が向上し、ページ離脱率が減少
- 購入完了率の改善: カート放棄率が改善され、特にチェックアウトプロセスでの離脱が大幅に減少
- モバイルからの購入比率向上: モバイル端末からの注文数がアクセス数の構成比に近づき、デバイス間の購入率格差が縮小
- リピート購入の増加: ユーザー体験の向上により、再訪問率とリピート購入の頻度が向上
特筆すべきは、これらの改善がプラットフォームの大規模な変更なしに実現できた点です。既存システムの枠組みの中でのUI/UX改善という制約がありながらも、ユーザー中心設計の徹底により、大きな効果を得ることができました。
中小ECサイト改善のポイント
本事例から得られた、中小規模ECサイト改善のポイントは以下の通りです:
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データに基づく優先順位付け:
- アクセス解析データを活用し、最も効果が見込める改善点から着手
- ヒートマップやユーザーテストを取り入れ、実際のユーザー行動を把握
- 「外観のブラッシュアップ」より「問題のある部分」の特定と改善に注力
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モバイルファーストの徹底:
- モバイルユーザーを最優先に考えることで、結果的に全デバイスの体験が向上
- タップしやすいサイズのボタンや適切な余白設計の重要性
- スマートフォン特有のインタラクションを考慮したデザイン
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シンプルさの価値:
- 複雑な機能よりも、基本的な購入プロセスの使いやすさを優先
- 情報過多を避け、意思決定に必要な情報を厳選して表示
- 多機能より「必要な機能が確実に動く」ことの重要性
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継続的な改善サイクルの構築:
- 改善→計測→分析のPDCAサイクルを小規模でも導入
- 定期的なユーザーフィードバック収集の仕組み化
- 業界トレンドや競合サイトの定点観測による情報収集
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費用対効果の高い施策の選定:
- 画像最適化やCTA改善など、投資対効果の高い施策を優先
- 既存リソースの有効活用と段階的な改善アプローチ
- A/Bテストを活用した効果検証と意思決定
まとめ
本事例では中小規模のECサイトにおいて、大規模なシステム開発に頼ることなく、ユーザー体験の最適化によってビジネス成果を向上させることが可能であることを示しました。
ポイントは、データに基づく課題発見、モバイルファーストの考えに基づく設計思想の転換、そして購入プロセスの徹底的な簡素化です。これらは決して高額な投資を必要とするものではなく、正しい優先順位付けと段階的な改善アプローチによって実現可能です。
マーケティングやブランディングは重要な戦略要素ですが、ユーザー中心主義に基づく地道なUX改善の継続こそが結果的にビジネス成長への近道となります。中小企業のWeb担当者の皆様にとって、本事例が自社ECサイトの改善検討における参考になれば幸いです。
ケーススタディ一覧