

プロジェクト概要
クライアント: 産業機器メーカー
目的: 技術情報と企業価値を効果的に伝え、問い合わせ数の増加を実現するサイトリニューアル
課題: 専門性の高い製品情報をわかりやすく伝達し、潜在顧客の理解と関心を高めること
解決策: ユーザー中心の情報設計と段階的な情報提供によるコンテンツ戦略の再構築
背景と課題
クライアントは産業用機器を製造する中堅メーカーで、主にBtoB向けに事業を展開しています。創業30年以上の実績がある一方で、Webサイトは10年前に構築されたものをマイナーチェンジのみで運用してきました。業界内では高い技術力と品質を持つ企業ですが、Webサイトではその価値が十分に伝わっていない状況でした。プロジェクト開始時には以下の課題が明らかになっていました:
- 情報設計の問題: 製品情報が部門別に縦割りで掲載され、関連製品や技術情報への導線が不明確
- 専門性と分かりやすさのバランス: 技術仕様が専門用語のみで説明され、非技術者には理解しづらい
- コンテンツの陳腐化: 更新頻度が低く、最新の製品情報や技術動向が反映されていない
- 問い合わせへの導線不足: 製品情報から問い合わせや資料請求への明確な導線が不足
特に重要だったのは「技術的な専門性を維持しながらも、初めて訪問するユーザーにも価値が伝わるコンテンツ設計」という要件でした。過去の分析では、サイト訪問者の約40%は検索エンジン経由の新規訪問者で、その多くが製品ページを閲覧するものの問い合わせに至らないという課題がありました。この問題を解決するため、ユーザー中心の情報設計とコンテンツ戦略の見直しを提案しました。
情報設計アプローチ
ユーザーペルソナとニーズ分析
まずは実際のユーザー層を理解するため、クライアントへのヒアリングとアクセス解析データを基に3つの主要ペルソナを設定しました:
- 技術者ペルソナ: 製品の技術仕様や性能に関心を持ち、詳細な情報を求める
- 購買担当者ペルソナ: コスト、納期、アフターサポートなどの実務的情報を求める
- 経営層ペルソナ: 企業の信頼性や実績、ソリューションの事業効果に関心を持つ
各ペルソナの情報ニーズと行動パターンを分析し、サイト内での理想的な行動フローを設計。異なるペルソナが各自の関心事に合わせて必要な情報にアクセスできる構造を目指しました。
サイト構造の再設計プロセス
サイト構造の再設計では、製品中心から「課題解決」中心の構造へと転換を図りました:
- 課題別セクションの新設: 業界や用途別の課題とソリューション提案を前面に
- 製品カテゴリの再編成: 従来の部門別から顧客視点での機能別カテゴリへ変更
- 関連コンテンツの連携強化: 製品、技術資料、事例、サポート情報の相互リンク
- 段階的な情報設計: 概要→詳細→専門情報という階層構造で理解を促進
この再設計により、「自社の何が顧客の課題解決に貢献できるのか」という視点でコンテンツを整理し、製品スペックだけでなく価値提案を前面に押し出す構成としました。
コンテンツ階層の最適化
情報の粒度と階層を見直し、ユーザーが必要な情報に効率的にアクセスできるよう設計:
- 第1階層: 課題解決型の概要情報(業界課題と解決策の概要)
- 第2階層: 製品・サービスの特長と基本情報(差別化ポイントを中心に)
- 第3階層: 詳細技術情報(仕様書、技術資料、図面など)
各階層で適切な情報量と表現方法を選定し、ユーザーの情報探索プロセスに沿った構成としました。特に第1階層では、技術的背景がない初見のユーザーでも関心を持てるよう、課題と解決策を簡潔に伝えることを重視しました。
実装のポイント
専門情報の可視化手法
専門性の高い技術情報をわかりやすく伝えるため、以下の可視化手法を積極的に採用:
- 図解とインフォグラフィック: 複雑な技術原理や製品構造を視覚的に表現
- 比較表の活用: 従来製品や競合製品との違いを一目で理解できる比較表
- 段階的な情報開示: 基本情報→詳細情報→専門資料という流れでの情報提供
特に効果的だったのは、技術データをグラフや図表で視覚化し、その意味を平易な言葉で解説するアプローチです。これにより、非技術者でも価値を理解しやすくなりました。
ストーリーテリングによる技術説明
製品や技術の説明において、単なる仕様リストではなくストーリーテリングアプローチを採用:
- 課題提起からの導入: 業界の一般的な課題から話を始め、共感を得る
- 解決プロセスの説明: 課題に対してどのようにアプローチしたかを説明
- 効果と事例の提示: 実際の導入効果や顧客の声を交えた説明
- 技術的裏付け: ストーリーを補強する形で技術的詳細を説明
この手法により、技術情報を単なる「スペック」ではなく「価値」として伝えることが可能になりました。特に経営層や非技術者ペルソナに対して効果的でした。
効果的なCTA(行動喚起)の配置戦略
ユーザーの関心度や情報ニーズに合わせた複数のCTAを戦略的に配置:
- 段階的な選択肢: 「詳細を見る」→「資料をダウンロード」→「問い合わせる」という段階的なアクション設計
- コンテンツ関連のCTA: 各コンテンツの内容に関連した具体的なCTA(例:「この製品の導入事例を見る」)
- スクロール位置に応じた表示: 長文コンテンツでは閲覧の進行に合わせてCTAを表示
- 問い合わせハードルの低減: 詳細な問い合わせフォームの前に簡易な資料請求や相談窓口を設置
これらのCTAは、ユーザーの閲覧行動データを基に最適な位置に配置し、継続的に効果測定と改善を行いました。
視覚デザインの工夫
製品・技術情報の視覚的表現
技術情報の理解を促進するビジュアル設計に注力:
- 高解像度の製品写真: 複数アングルからの詳細な製品画像
- プロセス図: 製造工程や技術原理を段階的に説明する図解
- アイコン活用: 製品特長や機能を直感的に理解できるアイコンセット
特に、製品の内部構造や動作原理など、言葉だけでは伝わりにくい情報を視覚的に表現することで、技術的バックグラウンドの異なるユーザーへの理解促進を図りました。
企業価値を伝えるデザイン要素
製品情報だけでなく、企業としての信頼性や価値観を伝えるデザイン要素も重視:
- 品質へのこだわりを表現する細部のデザイン: 精密さや正確さを感じさせる要素
- 一貫したブランドアイデンティティ: カラースキーム、タイポグラフィ、画像スタイルの統一
- 企業の歴史や技術の蓄積を視覚化: タイムラインや実績の数値化
- 人の要素の取り入れ: 開発者や技術者の顔が見えるコンテンツ
これらの要素により、技術情報だけでなく「誰が」「どのような思いで」製品を作っているかという人間的側面も伝えることができました。
レスポンシブデザインの最適化
多様なデバイスでの閲覧に対応するレスポンシブデザインを実装:
- 情報の優先順位付け: 画面サイズに応じて表示する情報の優先度を調整
- ナビゲーションの最適化: モバイル向けに簡略化された直感的なナビゲーション
- タッチインターフェース対応: タップやスワイプを考慮した操作性
- 読みやすさの確保: デバイスに応じたフォントサイズと行間の最適化
特にBtoB企業では見落とされがちだったモバイル対応を強化し、外出先からのアクセスや会議中の参照にも対応できる設計としました。
導入効果
リニューアル実施後、サイトのパフォーマンスは以下のように変化しました:
- サイト滞在時間と回遊率の向上: 平均セッション時間が増加し、閲覧ページ数も増加
- 問い合わせ行動の変化: サイト経由の問い合わせ数が増加、特に製品詳細ページからの問い合わせが向上
- 資料ダウンロード数の増加: 技術資料や製品カタログのダウンロード数が大幅に増加
- 新規顧客からの接点増加: 検索経由の新規訪問者からの問い合わせ比率が向上
特に効果的だったのは、製品情報から技術資料、事例紹介、問い合わせへと段階的に誘導する情報設計です。これにより、初見のユーザーでも自然な流れで関心を深め、行動につなげることができるようになりました。
製造業サイト設計のポイント
本事例から得られた、製造業向けコーポレートサイト設計のポイントは以下の通りです:
-
専門性と分かりやすさの両立:
- 専門用語を排除するのではなく、適切な解説を添える
- 視覚的な要素を活用して複雑な情報を分かりやすく表現
- 情報の階層化により、必要に応じて詳細情報にアクセスできる設計
-
課題解決型の情報構成:
- 製品スペックではなく、顧客の課題解決を起点とした構成
- 業種や用途別のセクション設計で関連情報への誘導
- 「なぜこの製品が必要か」という文脈の提供
-
BtoB向けコンテンツの差別化:
- 事実と数値に基づく信頼性の高い情報提供
- 導入事例や実績の具体的な提示
- 長期的な関係構築を意識した情報設計(アフターサポート、保守情報など)
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技術情報と営業メッセージのバランス:
- 技術情報を「価値」として翻訳するコンテンツ作り
- ユーザーの役割や関心に合わせた情報提供
- 段階的なCTA設計による無理のない誘導
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継続的な改善とコンテンツ更新:
- アクセス解析に基づく定期的な改善
- 成功事例や新製品情報の積極的な追加
- 業界動向や課題の変化に対応したコンテンツ更新
まとめ
本事例では、製造業のコーポレートサイトにおいて、技術的な専門性を維持しながらも分かりやすく価値を伝えるための情報設計とコンテンツ戦略の重要性を示しました。
ポイントは、ユーザーの視点に立った情報構造の再設計と、段階的な情報提供による理解促進、そして明確な行動喚起の設計です。これらにより、専門性の高い製品や技術情報であっても、様々なバックグラウンドを持つユーザーに効果的に伝えることが可能になります。
技術力や製品の価値を正しく伝えるサイト設計がビジネスの成長を支える重要な要素となります。製造業や技術系企業のWeb担当者の皆様にとって、本事例が自社サイトの改善検討における参考になれば幸いです。
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